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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1700号 判決 1977年12月19日

控訴人(原審七〇、五一一号事件被告) 合資会社中央自動車工業

右代表者無限責任社員 大久保元治

控訴人(原審七〇、五六四号事件被告) 大久保元治

右両名訴訟代理人弁護士 松村弥四郎

被控訴人(原審原告) 二ノ宮健治

右訴訟代理人弁護士 小室貴司

主文

原判決を取消す。

控訴人合資会社中央自動車工業(以下控訴会社という)と被控訴人との間の東京地方裁判所昭和四九年(手ワ)第一、七〇五号約束手形金請求事件について同裁判所が昭和四九年一〇月四日に言渡した手形判決を取消す。

被控訴人の控訴人両名に対する請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、申立

(控訴人ら)主文同旨。

(被控訴人)控訴棄却。

第二、当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決書事実欄摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、抗弁の追加

1.時効(控訴人ら)

(イ)本件手形の振出人有限会社松原製作所に対する手形上の請求権は、満期から三年を経過し、昭和五一年一〇月一五日の終了とともに、時効完成によって消滅した。

(ロ)控訴人らは、昭和五一年一二月一三日の当審における本件第二回口頭弁論期日に右時効を援用した。

(ハ)その結果控訴会社に対する遡及権を、手形所持人である被控訴人は、行使できなくなった。

(ニ)控訴会社の無限責任社員である控訴人大久保元治の責任は、手形上の責任であって、控訴会社の手形上の責任が時効により消滅した以上、これまた消滅する。

2.(控訴人大久保元治)

イ、控訴会社は、肩書送達場所において、自動車板金塗装業を営み、昭和四九年以来現在まで結城信用金庫に当座取引があり、弁済の資力がある。

ロ、そして控訴会社に対する執行は容易である。

二、右抗弁に対する被控訴人の認否

1.1の事実は争う。控訴人大久保の責任は、商法八〇条に基づく独立、最終的無限連帯責任で、内部的に負担部分はないから、一旦発生した以上、それ自体の権利消滅原因がない限り消滅せず、控訴会社について時効が完成していても、民法四三九条の定めに従い、控訴人大久保について時効は完成しない。

2.控訴会社の肩書送達場所において営業しているのは、控訴会社ではなく、名称の似た中央商事株式会社であり、結城信用金庫は、控訴会社との取引が被控訴人申請の債権差押取立命令事件の結果、不良貸付と認定されたため、管理課に回し、預金を上廻る貸付金と相殺した結果、預金残高は皆無である。

三、再抗弁(被控訴人)

1.(中断、控訴人大久保に対するもの)

被控訴人は、原判決取消後、その時効完成前、すでに控訴人大久保所有の不動産に対して競売の申立をなし、現在進行中である(水戸地方裁判所下妻支部昭和五一年(ヌ)第三一号)。

2.(条件成就の妨害、または権利濫用)

本件を振返ってみると、第一審において控訴人らが抗弁として主張したものは、(イ)満期後の指名債権譲渡であること、(ロ)原因関係において弁済したこと、(ハ)信託法違反の三つであった。

右主張は、いずれも、手形法理からみると明らかに坑弁として成立たず、ただいたずらに時間をかせぐためとしか考えられない。

そこで手形判決及び原審判決は、控訴人らに対し支払いを命じた。従って、もし、控訴人らが手形判決及び原判決に基づいてその請求を履行すれば、直ちに手形を受け戻し、振出人に対してその請求権を行使できたわけである。

ところが控訴人らは、そのような法律上の義務があり、しかもその義務が顕在化していたにもかかわらず、前記の主張をしてその履行を拒み、事実上時効の完成を待つていたことは民法所定の条件を故意に成就させたものか、少くとも権利濫用として、その支払義務を免れることはできない。

四、再抗弁に対する認否(控訴人ら)

1、2とも争う。

第三、証拠<省略>

理由

第一、控訴会社に対する請求について。

一、原判決書事実欄摘示の請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二、そこで、まず控訴会社の抗弁について検討する。

1.当裁判所も、原判決書事実欄摘示の抗弁(一)及び(二)は理由がないものと判断するが、その理由は原判決書理由欄三枚目裏八行目から四枚目裏七行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。

2.時効の抗弁(前記一の1)中(イ)の事実は、成立に争いのない乙七号証によって認められ、同(ロ)の事実は、本件記録上明らかである。このように振出人に対する時効を完成させてしまった所持人(被控訴人)は、求償不可能となった本件手形を控訴会社に返還して遡及する(償還を求める)ことはできないと解するのが相当である(大審院昭和八年四月六日判決民集一二巻五五一頁)。

三、次に再抗弁の2について考えるに、控訴人らが原判決事実欄摘示の抗弁(一)及び(二)を主張して抗争し、かつ本件控訴を提起したことを、時効完成を目的として故意に時間かせぎをしたものと認めさせるに足る証拠はない。

本件手形は、受取人である控訴会社から山田由蔵に、山田由蔵から馬場隆重に順次裏書され、満期の昭和四八年一〇月一五日に支払場所に呈示されたこと、その後昭和四九年七月一日に馬場隆重が指名債権譲渡の方法で被控訴人に右手形債権を譲渡したことは当事者間に争いがなく、控訴会社が本件手形の被裏書人である山田由蔵に対し満期後の昭和四八年一一月一日に割引代金一五〇万円を支払ったことは前記引用認定のとおりであって、原審における控訴人大久保元治本人尋問の結果によれば、控訴会社が前記のとおり山田由蔵に一五〇万円を支払った当時、控訴会社は馬場隆重と電話で話し合い、これを山田由蔵に支払うということで了解がついていたことが認められるのであるから、前記抗争及び控訴提起を、一がいに、理由がないことを知りながら(或は知りうるはずであるのに)あえてなしたものということはできない。

従って再抗弁は理由がなく採用できない。

四、そうだとすれば、被控訴人の控訴会社に対する請求は理由がない。

第二、控訴人大久保元治に対する請求

一、被控訴人は、請求原因(二)において具体的事実を挙げて控訴会社が債務超過である旨主張し、控訴人大久保元治はこれを争っている。

しかし控訴会社が債務超過の状態にあることは被控訴人に挙証責任があるところ、これを認めるに足る証拠はない。かえって、当審における控訴人大久保元治本人尋問の結果によれば、控訴会社は肩書送達場所に機械類、工具類等の有体動産で一〇〇万円位と、修理代等の売掛金債権が一〇〇万円位の合計二〇〇万円位の資産があることが認められるのである。

そうだとすれば、控訴人大久保元治に控訴会社の債務を弁済する責任があるということはできない。

二、また仮に控訴会社が債務超過の状態にあったとしても、控訴会社の無限責任社員であること当事者間に争いのない控訴人大久保元治の弁済すべきものは、控訴会社の債務であるところ、前記のとおり控訴会社に手形上の債務がない(時効を原因として消滅した)以上、控訴人大久保元治が、これを弁済すべき理由はない。

三、従って再抗弁の1について判断するまでもなく、控訴人大久保元治に対する請求は、理由がない。

第三、以上のとおり被控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを認容した手形判決及びこれを認可した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条及び同四五七条二項に則りこれをいずれも取消し、被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 園田治 木村輝武)

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